2026年1月23日

ピアノの前から、旅の入り口へ——行田さんの選んだ場所

ピアノの前から、旅の入り口へ——行田さんの選んだ場所

チェックインから始まる、一日の仕事

私は、いせんでチェックイン・チェックアウトやお部屋へのご案内、ダイニングでの接客を担当しています。
ryugonのリニューアルとともに入社して、今年で7年目になります。
いまはこうして観光の仕事をしていますが、もともとはまったく違う仕事をしていました。
新潟県柏崎市で、ピアノ講師として約30年、子どもを中心に音楽を教えてきたんです。
チェックインからお部屋へのご案内、食事の時間の対応まで、旅館の仕事は一日を通して気を配ることがたくさんあります。
「お客さまの時間が、気持ちよく流れているか」
そのことを常に考えながら動く仕事は、想像以上に体力も気遣いも必要でした。

「想像していた旅館」とのギャップ

正直に言うと、観光業への転職はかなり甘く考えていました。
お客さまの立場では見えていなかった仕事が、実際に働いてみると本当に多くて。
ディナーの準備ひとつとっても、裏で動いている人の数や、段取りの細かさに毎日驚いていました。
「こんなにたくさんの人が関わって、やっと一つの時間が成り立っているんだ」と。
ピアノ教室では、決まった場所で、決まった人と、長く向き合う仕事でした。
それに比べて旅館は、目の前のお客さまも、状況も、次々と変わっていきます。
その変化の速さに、最初はついていくのが大変でした。

ピアノの前から、旅の入り口へ——行田さんの選んだ場所

役割を超えて動く、いせんの現場

いせんで働いていて感じるのは、「これは誰の仕事」という線が、いい意味で細かく引かれていないことです。
チェックインやお部屋のご案内が終わったと思ったら、ダイニングを手伝ったり、気づいた人が先に動いたり。
役割を越えて動く場面は、日常的にあります。
最初は正直、戸惑いもありました。
自分の仕事の範囲がはっきりしていた以前の働き方とは、ずいぶん違ったからです。
でも、「今、何が必要か」をその場で考え、動くことが求められるこの環境は、次第に心地よくなっていきました。
役割を越えるというより、「一緒に場をつくっている」という感覚に近いのかもしれません。

失敗しても、立ち止まらせない空気

もちろん、失敗もたくさんありました。
入った当初は、そそっかしいところもあって、落ち込むことも多かったです。
でも、「行田さんが悪い」と責められることはありませんでした。
本人が一番落ち込んでいるから、それ以上追い打ちをかけない。
そんな距離感が、自然とありました。
だからこそ、次は落ち着いてやろう、前を向こうと思えた。
言いたいことは伝えるけれど、引きずらない。
そういう関係性が、職場の空気をつくっているのだと思います。

短い時間で、また会いたくなる関係

旅館の仕事で、お客さまと過ごす時間は決して長くありません。
チェックインからチェックアウトまで、長くても数日です。
それでも、「また会えた」という感覚が生まれることがあります。
次に来られたときに、
「この前、ピアノ弾いてくれたよね」
「行田さんに会いに来たよ」
そう声をかけていただくことがあるんです。
子どもが好きなので、つい話しかけてしまうのですが、後日、お手紙や絵を送ってくれたこともありました。
何度も会いに来てくれるご家族もいます。
短い時間でも、ちゃんと向き合えば、「また会いたい」に変わる。
それを実感できるのが、この仕事の面白さだと思っています。

ピアノの前から、旅の入り口へ——行田さんの選んだ場所

これまでの自分が、ここでつながった

ピアノは、私にとってずっと仕事でした。
応募の時点で強く意識していたわけではありませんが、面接の中で社長から
「ピアノが弾けるなら、ここでも弾いてほしい」
と言われ、この場所では、これまでの自分も含めて働くのだと感じました。
実際に働き始めてから、お誕生日や記念日のサプライズでピアノを弾く機会が増えていきました。
特別なことをしようとしたわけではなく、その場に必要なこととして、自然に役割の一つになっていった感覚です。
異業種への転職というと、経験をリセットするイメージを持たれがちですが、私はそうは感じませんでした。
形は変わっても、自分が大切にしてきたものは、ちゃんと仕事につながっていく。
ここでは、それが自然に許されている気がします。

雪国で働くという選択

私はもともと新潟出身で、柏崎でも雪のある暮らしをしてきました。
だから、越後湯沢や六日町に来ること自体に、大きな不安はありませんでした。
冬はスキーで訪れていましたし、「雪国」という環境は、どこか身近な存在だったんです。
ただ、働くようになってから見える景色は、少し違いました。
観光で来ていた頃は、楽しむ側として雪を見ていましたが、今は暮らしや仕事の一部として向き合っています。
雪が降れば、動線も変わりますし、お客さまへのご案内の仕方も変わる。
自然に合わせて、仕事のリズムも変わっていくんです。
それでも、不思議と「大変だな」だけでは終わりません。
雪があるからこそ、この土地ならではの景色や、食べもの、時間の流れが生まれている。
そう思えるようになってからは、この環境で働くこと自体が、ひとつの価値だと感じるようになりました。

ピアノの前から、旅の入り口へ——行田さんの選んだ場所

暮らしの延長に、仕事がある

休日は、山に登ったり、スキーをしたり、ドライブに出かけたり。
私はもともとアウトドアが好きで、休みの日も、じっとしているより外に出ていることが多いです。
いせんで働くようになってから、その時間が「ただの趣味」で終わらなくなりました。
山に登って感じたことや、景色の美しさ、実際に歩いてみてよかった場所。
そうした体験を、そのままお客さまとの会話の中で話すようになったんです。
「昨日、あの山に登ってきたんですよ」
「この辺り、少し足を延ばすと気持ちいい場所がたくさんあって」
そんな何気ない会話ですが、自分が実際に楽しんでいるからこそ、言葉にも実感がこもります。
お客さまが「じゃあ行ってみようかな」と言ってくださって、
後日「本当に良かったです」と、感想をいただけることもたくさんあります。
ここでは、働くことと暮らすことが、きれいに切り分けられていません。
自分がこの土地でどう過ごしているか、そのままが仕事につながっていく。
無理に“おすすめ”をつくるのではなく、日々の生活そのものが、地域の魅力を伝える材料になっている。
それが、いせんらしさなのだと思います。
旅館は、ただ泊まる場所ではなく、この地域を知ってもらう入り口。
だからこそ、ここで働く私たち自身が、この土地を楽しんでいることが大事なんだと思うんです。
「旅するように働く」という言葉がありますが、
私にとっては、特別なことではなく、ごく自然な感覚です。
自分の暮らしを大切にしながら、その延長で人を迎える。
そんな働き方ができていることを、いまはとても心地よく感じています。

これから働く人へ

いせんで働いていて感じるのは、「自分のスキルを、そのまま活かせる場所だな」ということです。
これまでやってきたことや、好きなことを、無理に切り離さなくていい。
お客さまも本当にいろいろな方がいらっしゃいますし、スタッフも多様です。
年齢も経歴も違いますが、みんなそれぞれが自分の役割を持っていて、自然に助け合っています。
スタッフ同士の距離も近くて、困ったときは声をかけやすいですし、みんな優しいなと感じます。
この地域自体も、とても魅力的です。
四季の変化がはっきりしていて、春も夏も秋も冬も、それぞれに楽しさがあります。
空気や水がきれいで、景色も本当に美しい。
アウトドアが好きな私にとっては、田んぼの風景を見ているだけでも、気持ちが落ち着きます。
大阪から来たスタッフも、「ここにいると癒される」と話していましたが、私も同じ気持ちです。
働く場所でありながら、暮らす場所としても心地いい。
そんな環境の中で、自分のやりたいことを大切にしながら、楽しく働けるのが、いせんだと思います。

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