萩野さんは、いせんが就職情報サイトを通して採用した初めての大卒と聞きました。
萩野
新卒で入社しました。大学時代、新潟市内の百貨店で配送の仕事をしていて、人と関わる仕事を続けたかったんです。
どうして旅館業に?
萩野
一言で言えば、人と関わる仕事を続けたかったんです。百貨店は、アルバイトからそのまま就職したんですが、2000 人もの社員やテナントの方々と付き合って、人と関わることの奥深さを知ったというか。
人と関わると、いいこともある一方で、あまりうれしくないこともあると思うんですが。
萩野
もちろん苦手な人もいました。でも、挨拶をするとか、小さなことを続けていたら、いつの間にか、挨拶を返してくれたり、顔を覚えてもらったり。最後はうまくいって、「つまるところ、いい人ばっかりだな」と思えました。それで、人と関わることをもっと追求したくなったというか。
きっと、いせんに入ってからも、順調だったんでしょうね。
萩野
いやいや。もう、毎日、怒られていました。3年くらいは怒られっぱなし。
よく、辞めなかったですね?
萩野
言われていることがもっともで、自分ができないということもよく分かっていて。そうなると悔しいじゃないですか。
耐えながら、自分を磨いていった?
萩野
私は知識も薄いし、これといって自慢できるものがない。ほかのスタッフが持っているような料理や食、山菜、ピアノ、といった技能もない。ただ、探究心はあったんです。何でも突き詰めたくて、たとえば、毎日のルーティン作業でも、「もっと効率的にできる方法はないだろうか」と。
その成果でしょうか。萩野さんは今、予約管理の責任者として、あるいはスタッフオペレーションの仕事もなさっていますよね?
萩野
予約システムをはじめ宿のシステムを構築したり、Google のスプレッドシートを使って、スタッフの配置やテーブルごとの予約内容が、一目で分かるようにしたり。
それって、IT の専門家がやるような、というか、専門家に外注するような仕事ですよね? もともと、パソコンに詳しかったんですか?
萩野
いえいえ、入社した時は、エクセルもできなかったです。独学で、休みの日もパソコンを前にして、いろいろ調べてやってみたり。
驚きました。
萩野
とはいえ、システム構築は、ゴールじゃないとも思っています。旅館業においても、IT 化はもっと重要になっていくと思いますけど、人を介さないと成り立たない仕事。接する人次第で大きく変わる。旅館業はゴールがないんです。だからこそ、続けがいがある。
最近では後輩も増えて、教える立場にもなって。
萩野
頼ってくれる後輩もできて。ただ、自分自身で「調子に乗るな」と釘を刺すようにしています。人生が電車だとしたら、会社って、同じ車両に一緒に乗っているようなものだと思っているんです。それなら、乗り換え駅で降りる人がいても、一緒に乗っている間は最高の車両にしたい。
そのためのシステムであり、自分自身への探究であり。
萩野
車両にはお客さんや、関わっている方々も、乗り降りする。そこにいる時間が最高の時間であってほしいですね。
休みの日はちゃんと、休んでますか? ちょっと不安になりますが。
萩野
一昨年、家を建てて、家の時間も家族で楽しんでいます。圧倒的にインドア派ですが。
オフの日の楽しみは?
萩野
子どもと、変なルールを作ってトランプしたり、あえて、何もせずに無駄な時間を過ごしたり。そうすると、焦って、エンジンがかかるんです。そうそう、録画した『仮面ライダー』もよく見ます。
仮面ライダー?
萩野
自分より相手を優先するでしょう。ああいうヒーローになりたい、って思ってるんです。子どもっぽくてすみません(笑)
仕事においても?
萩野
そうです。ちょっとカッコつけますけど、ずっと「自分でなく相手のことを考える」ということを自分の一番大切なところに置いていて、これだけは守りたい。まだまだできていませんが…。その上で、「もっと楽しく」「もっと効率的・効果的に」と突き詰めていければと。
仕事は仕事、なんて言い方もしますけど、萩野さんの話を聞いていると、仕事と生き方をあえて一緒にしている。そこに自分を追い込みつつ楽しんでいる、そんな気がしました。