三輪・社長対談 その1 青木酒造×HATAGO井仙

青木酒造×HATAGO井仙

「地元、魚沼の魅力を発信すべし」。三輪・第一弾「旅籠酒」をめぐる物語

「人に尽くし、己を磨き、共に伸びる」。これはHATAGO井仙の企業理念「旅籠三輪書(はたごさんりんのしょ)」だ。マークは重なりあう三つの輪。ひとつはお客さま、ひとつは社員、もうひとつは地域を表している。この三つの輪が、どれかひとつの利益に偏ることなく、和をもってともに成長することで、これに加わるすべての人たちを幸せにする、と考えている。今、HATAGO井仙は、そんな理念を形あるものに結んでいこうと動き始めた。題して、旅籠三輪プロジェクト。三輪の理念に賛同していただいた作り手とHATAGO井仙が夢を共有し、魚沼の本当にいいもの、受け継ぎ、残したいものを生み出し、お客さまへと伝えていくつもりだ。
 今回は、そんな旅籠プロジェクトの第一弾「旅籠酒」にスポットをあて、両社長に話を聞いた。「旅籠酒」は、湯沢のお隣、南魚沼市塩沢にある創業290年の青木酒造とのコラボレーションで生まれた、地元の、地元による、お客さまのための酒。誕生のきっかけや、地元魚沼への思いを語ってもらった。

青木酒造×HATAGO井仙

青木貴史
1972年生まれ。青木酒造(株)代表取締役。淡麗辛口といわれる新潟にあって、酒本来の旨みを残した酒造りを行う。代表銘柄は「鶴齢」。ほかに「雪譜」「巻機山(まきはたやま)」「雪男」がある。創業290年の伝統に裏づけられた確かな技を守りつつ、常に新たな味、酒造りに挑戦する。地元で飲み続けてもらう酒を目指し、全国各地にファンを増やした現在でも、90%は地元魚沼で消費されている。

井口智裕
1973年生まれ。(株)いせん代表取締役。2005年に湯沢ビューホテルいせんを、21世紀の旅籠を目指し、「HATAGO井仙」にリニューアル。日本酒好きで唎酒師の資格も持つ。

青木酒造×HATAGO井仙

地元の米と水を使って、地元の造りで井仙の酒ができないか。それが始まりだった(井口)

地元にこだわる方向性が、うちの考えとまず合った。南魚沼産の五百万石で造っている酒を無濾過でやろうかと(青木)

青木酒造×HATAGO井仙

井口:2005年にHATAGO井仙をリニューアルしたとき、掲げたキーワードのひとつが「地元魚沼の発信」。レストランに魚沼キュイジーヌという冠をつけたのもそうした理由からでした。そんななか、地元の米と水を使って、地元の造りで井仙オリジナルの酒というのができないかと、以前から知り合いだった青木貴史社長にお願いしたら「こういう酒ならできるよ」と即答いただいて。
青木:地元のものをちゃんとした形で提供してお客さまに喜んでいただきたい、そんな井仙さんの考えが、まず、うちの考えと合った。しかも同じ世代の人が新しい環境、新しい形で、内装をがらりと変えてやられる。であればうちとしても協力したいと。具体的には、南魚沼市浦佐産の五百万石で造っている酒に「雪譜(せっぷ)」がある。井口さんにはうちの無濾過に対して高い評価をいただいていたので、「じゃあ、雪譜を無濾過でつくりましょうか」と。井仙さんに卸す700本だけ別取りとなりますが可能だろうと提案させてもらいました。
井口:青木酒造は地元の飲み手を非常に大切にしている蔵で、今でも地元消費が90%でしたか?でありながらも、無濾過の酒を造ったりと、チャレンジングな精神も持ち合わせている。お願いできればと思ったけれど、私自身、酒好きだけれども酒造りに詳しいわけでもないから、「こんなの、つくってくださいよ」と、おこがましくも軽い気持ちで。
青木:それこそこちらも軽い気持ちで(笑)。
井口:でも、これまでにある商品のラベルを変えるのではなく、違う商品を造るということで、ラインも別に動かしていただかなければならない。
青木:確かにタンクも別、さらに旅籠酒は瓶で貯蔵しているので、品質保持のために冷蔵庫も確保しました。でも手間を惜しんでいたらねえ、何にもできない。井仙さんで売っていただけるのなら、その方がいいと。
井口:ほんとうにありがたいことです。本数にすれば年間700本。青木酒造さんにとっては、商売になる話じゃないです。なのに一旅館のために動いてくださっている。始めは軽い気持ちだったけれど、今になってその重みを感じています。

青木酒造×HATAGO井仙

『旅籠酒』によって自分たちのあるべき姿が見えてきた。それはお客さま、地元、井仙が、和をなして発展する『三輪』という企業理念でもある(井口)

うちの企業理念は『和合』。酒というモノを造っているけれど、売ってくださる人、飲んでくださる人がいてはじめて完成する(青木)

青木酒造×HATAGO井仙

井口:うちとしては、この旅籠酒をつくったことで、「自分たちのあるべき姿」がはっきりと絞られた。魚沼の文化を掘り起こして根づかせる旅館の役割、つまり「魚沼の魅力発信」が単なるキャッチフレーズではなく、目に見えるものになった。これが大きい。
 実はこうしたコラボレーション、うちの企業理念そのものなんですね。「旅籠三輪書」として「人に尽くし、己を磨き、共に伸びる」と掲げていますが、これは、お客さまと社員、井仙の三つ輪が和をもって発展すること。そうした中で自分たちやお客さまだけでなく、地域が発展することを目指している。
青木:うちの企業理念は「和合」なんです。まず酒造りは一人ではできない仕事だから人と人の和が不可欠。さらに飲み手、売り手、作り手があって、その輪がきれいに組み合わさったときにこそ、モノの価値がしっかりと浮かび上がる。蔵人に話しているんですが、うちは酒というモノをつくっているけれども、これは蔵から出荷した時点で完成ではない。売ってくださる人、飲んでくださる人がいてはじめて鶴齢(かくれい)として完成すると。
 今日はじめて井口さんのところの企業理念を聞いて、お互いにこういう話をしたけれど、三輪と和合、それがベースにあったから旅籠酒も実現したんでしょうね。

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魚沼という土地はポテンシャルがすごく高いと思う。世界的なワインの産地にも匹敵する(青木)

魚沼の豊かさを、具体的な商品を通して伝えていきたい。『うまい』をもっとたくさんの人に(井口)

青木酒造×HATAGO井仙

井口:旅籠酒に始まった三輪の取り組み、今後は、味噌や醤油にも広げて行きたいと思っています。地元に光をあてて、それが魅力的な商品となることで地元が潤う、お客さんが喜ぶ、井仙もうれしいと、三者がみな喜べるような形の展開が理想です。僕が思うに、魚沼という土地は魅力があるのにわかりにくい。普段の生活がこんなに豊かだということ、人と人がつながりあって旅籠酒のような商品が生まれてるということをもっとわかりやすい形で、つまり目に見えるモノとして発信していきたい。
青木:魚沼という土地はポテンシャルがすごく高いと思う。それこそ世界的なワインの産地にも匹敵するような豊かさにあふれている。 井口:そういう魚沼にこだわって、魚沼を特化していこうと思うと、たとえば旅籠酒もゆくゆくは、新潟県で生まれた門外不出の酒米、越淡麗(こしたんれい)で醸してもらいたいという気持ちがあります。もちろん、評判のいい酒米で、先約もあるだろうからすぐには無理だろうけど。
青木:来年からうちの純米吟醸は全部、越淡麗で造ろうと思っています。これまでは長野県産の美山錦(みやまにしき)を使っていましたが、生酒も純米にして越淡麗を使おうと。しかもその越淡麗の酒米、地元で作ってもらえることになりました。
井口:場所はどのあたりなんですか?
青木:旧塩沢町の君沢です。
井口:魚沼コシヒカリで最高の評価を与えられているところじゃないですか。それはすごい。
青木:それを地元限定で売ろうと思ってます。塩沢産の新潟限定の酒米で造った酒を、地元でのみ売る。そうやってみると、来年は、うちが県内の酒蔵でいちばん越淡麗を使う蔵になるんじゃないかな。
井口:一番売れている吟醸クラスを越淡麗にするなんて、チャレンジングですよね。蔵人も緊張するだろうに、この潔い決断、いかにも青木酒造さんです。
 旅籠酒は、さっきも言ったように本数は少ないですし、商売ベースにのった商品じゃない。ではどうしたら青木酒造さんにお返しができるのか、そう考えたとき、出てきた答えは、旅籠酒という商品の価値をしっかりと作っていくこと。それをお客さん一人一人にちゃんと伝えていくことじゃないかと。
 旅籠酒をお客さんに勧めて飲んでいただいて、目の前で「うまいね」と言っていただく。それがすごくうれしくてね。なんだろうこの気持ちは。これまで味わったことがない気持ちです。これを大切に、お客さんの「うまい」をもっともっと伝えていきたい、大切に育てていきたいと、そう思っています。
 今年、仕込んでいただいている旅籠酒は、4月には「んまや」に並びます。「むらんごっつぉ」でも飲んでいただけます。旅籠三輪プロジェクトの新酒、どうぞご期待ください。

青木酒造×HATAGO井仙青木酒造×HATAGO井仙

築200年以上の家屋の前に立つ青木家の人々。左からおばあちゃま、社長、日向子ちゃん、奥さま、お母さま。青木酒造は代々、この和やかな笑顔に支えられてきた。家屋には、牧之通りに面して店舗があり、青木酒造の酒のほか、鶴齢のロゴの入った徳利やおちょこ、前掛けなどを販売している。接客は女性陣が対応。日向子ちゃんの弟、妹は不在にて登場できず。

青木酒造
住所:〒949-6408新潟県南魚沼市塩沢1214
電話:025(782)0023
fax:025(782)4849
http://www.kakurei.co.jp/

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